コーヒーの産地として中国の名前を聞いて、すぐにピンとくる方はまだ多くありません。しかし中国はすでに世界の生産国の一つであり、その生産のほぼすべてを雲南省が担っています。
しかもこの10年ほどで、雲南のコーヒーは大きく変わりました。安価なコモディティとして輸出されるためだけの存在から、農園単位でカップが評価されるスペシャルティの産地へ。この記事では、その背景を地理・歴史・品種・精製処理の4つから整理します。
なぜ雲南でコーヒーが育つのか
雲南省は中国の南西端、ミャンマー・ラオス・ベトナムと国境を接する地域です。コーヒーの栽培地帯はおおむね北緯21~25度、いわゆるコーヒーベルトの北限に近い位置にあたります。
緯度だけ見れば高すぎるのですが、この地域は標高が高い。主要な農園は標高1,000~1,700m に位置し、山岳地帯のため昼夜の温度差が大きくなります。この温度差が、コーヒーの種子をゆっくりと密度高く育てます。スペシャルティの評価で重視される「密度」の高い生豆が取れるのはこのためです。
また、地形が複雑なため谷ごと・山ごとに微気候が違います。同じ省内でも農園によってカップがはっきり変わるのは、この多様な地形のおかげです。
雲南コーヒーの歴史
雲南へのコーヒー導入は19世紀末とされています。1892年頃、フランス人の宣教師が大理・賓川県の朱苦拉(シュクラ)村に苗を植えたのが始まりといわれ、この村には現在も古いコーヒーの木が残っています。
本格的な栽培が始まったのは1950年代、国営農場による生産からです。その後1980年代末に大手食品メーカーがプーアル地区での調達を本格化させ、栽培面積が一気に拡大しました。ただしこの時代の雲南コーヒーは、インスタントコーヒーなどの原料として重量で取引されるもので、風味で評価されるものではありませんでした。
潮目が変わったのは2010年代以降です。収量を追うのではなく、完熟チェリーだけを手摘みし、精製処理を丁寧に行う農園が現れ始めます。国際大会での入賞や、海外ロースターによるマイクロロットの買付が増え、「雲南のどの農園の、どのロットか」が語られるようになりました。
品種の話
雲南で最も広く栽培されているのはカティモールです。1990年代から大量に導入され、長年の品種改良を経て現在の主流になっています。さび病に強く収量が安定している一方で、「カティモールは風味が平凡」と見られがちでした。
しかし、標高と精製処理の設計次第で、カティモールでも十分に複雑なカップが作れることが分かってきました。弊社が扱うロットにもカティモールのものが多くありますが、バニラやラムを思わせる香り、ブラックカラントの甘酸っぱさといった表現が出ます。
それとは別に、ティピカ、ブルボン、カトゥーラ、ヴィラサルチなどを少量栽培している農園もあります。中には、ジャマイカから直接導入したティピカが15年以上の栽培を経て風土に馴染み、リーフの色がパープルに変異した農園固有の品種になっている例もあります。
主要産地
弊社が継続して買い付けているのは、保山、徳宏、プーアル、臨滄、孟連、西双版納の6地域です。北側の保山は小規模農園が多く精製処理の実験に積極的、ミャンマーと接する徳宏は盆地気候で品種改良の研究が進んでいます。プーアルは雲南最大級の生産地で老舗農園が多く、臨滄は複雑な地形と大きな昼夜温度差が特徴。西双版納には標高1,700m 級の高標高農園もあります。
産地ごとの位置関係や、各農園の標高・品種・精製処理の詳細は、公式サイトの産地地図にまとめています。文章で読むより地図で見ていただくのが一番早いので、あわせてご覧ください。
精製処理が雲南を変えた
雲南コーヒーの評価を押し上げた最大の要因は、精製処理の進化です。嫌気性発酵(アナエロビック)、コーヒー専用酵母を使ったイーストファーメンテーション、ワイン熟成用のオーク樽を使った熟成。他の産地なら伝統的な方法が確立していて実験の余地が少ないところ、雲南は歴史が浅い分だけ柔軟でした。
同じカティモールでも、発酵の設計を変えればヨーグルトのような乳酸質の明るさも、ウイスキーボンボンのような濃厚な甘さも作れます。この幅の広さが、今の雲南の面白さです。
味わいの傾向
一言で言い切るのは難しいのですが、共通するのは甘さの質です。ブラウンシュガーやはちみつのようなとろっとした甘さが余韻に残るロットが多く、酸味はアフリカのウォッシュドほど鋭くないものの、日向夏やブラッドオレンジのような丸みのある柑橘感として現れます。
このバランスは、ブラックでもミルクビバレッジでも成立しやすいという実用的な利点にもつながっています。
MOUNTAIN MOVER の関わり方
弊社は2020年に東京で創業し、雲南スペシャルティを専門に扱っています。毎年の生産期に産地へ赴き、でき上がったロットを選ぶだけでなく、精製処理の設計段階から農園と一緒に作っています。徳宏には自社農園も持っています。
小さな農園と続けて取引し、発酵の調整や選別の精度を一緒に上げていくことが、結果として安定した供給にもつながると考えています。
産地ごとの違いは、飲んで比べるのが一番早いです。生豆はGREEN BEANSで300gサンプルから、焙煎済みのシングルオリジンはROASTED COFFEEに100gからご用意しています。
業務用でのご検討は業務用コーヒー豆の選び方もあわせてご覧ください。